vol.38-⑨ これで大丈夫!これで行こう!
- 2022年05月30日
- 所長の学び
前回の続きになります。
訪問看護2年目。
僕自身の考え方が変わったことで、利用者さんとの関わり方が変わりました。
そして関わり方が変わったら、起こる出来事が変わりました。
それは僕にとってはもう「奇跡」と思えるような不思議な出来事ばかり。
だって、その人を変えよう、良くしようと頑張っていた時は、変わらなかったんですよ。
それどころか、その人の精神状態も生活状況も、僕との関係も悪くなっていったのに。
僕が目の前の人を変えようとすることをやめて、
その人の言葉に耳を傾け、
全てをありのままを認めるようになったら、
どんどん変化していく。
どんどん元気になっていく。
どんどん幸せそうになっていく。
それが一人ではなく、僕が担当している利用者さんの多くが。
そして、不思議も不思議。
そのご家族までもが変化していくんです。
????????
もう不思議でたまりませんでした。
その中でも特に僕に大きな学びを与えてくれた3名の方を今日は紹介したいと思います。
(こちらも個人情報のこともあるので、少し内容を変えさせていただいています。)
【ケース6】
10代の学生の方だったのですが、訪問1年目の金村に対し、「もう訪問看護は必要ない」と拒否をするようになった方です。
学校に行かず家にひきこもっており、考えがとても妄想的かつ被害的でした。
その方にも僕は心から謝罪したのです。
「〇さんの味方だなんて言ってきたけどウソでしたね。本当にごめんなさい。○さんの味方だと言いながらずっと僕が○さんのことを否定して苦しめていましたよね。本当に申し訳なかったです。こんな僕でもよければこれからもお話し聴かせてくれませんか。」
と。
そうやって謝罪した日に、その方の趣味を初めて教えてくれたのです。
これまで1年通っても教えてくれていなかったのに。
その趣味は一見すると人から嫌がられるようなものかもしれません。
でもそれをたくさん教えて頂いたのです。
もちろん僕も最初は「え?!」ってビックリしたのですが、話を聴いているととても面白くなってきて、何よりも嬉しそうに語っているその方が素敵で、とてもいい時間を過ごさせていただいたんです。
そして学校に行けない理由もたくさん教えてくれました。
お風呂に入らない、食事を摂らないなど、おかしく見える行動にも全てその人の考えがあることが分かりました。
「金村さん、何か言ってやってください」というお母様の訴えも僕は軽く受け流し、
その方の全てを僕は「それでいい」「大丈夫」とお伝えしてきたのです。
そうすると、ある日突然自分から学校に通い始めたのです。
そして、それどころかアルバイトまで始めました。
えーーーー?どういうことーーーー?
あれだけ嫌がってたじゃん!!!
そしてそのアルバイトで稼いだお金で趣味をさらに楽しむようになったんです。
もちろんバイトをすると自然とお風呂も入るようになるし、食事も摂るようになります。
「訪問看護はいらない」と以前は言っていたのに訪問の回数だって増やして欲しい、ともなりました。
(※回数が増えることが良いことだと言っているのではありません。それだけ訪問看護利用の意味を本人が感じるようになったということです。本来はその方の回復が進むにつれて回数は減らしていくものです。)
ホント、僕は何もしていないんです。
ただお話を聴かせてもらって「それでいい」「大丈夫」のメッセージを伝え続けさせてもらっただけです。
訪問最終日に僕はあまりにも気になったので尋ねてみたんです。
(金村)
「どうして〇さんはそんなに変ったんですか? 僕は何もしていないのに。」
するとこんな言葉が返ってきました。
「金村さんはずっと私を信じてくれました。私が変われたのはそれです。」
そんな言葉をいただいたのでした。
【ケース7】
この方は僕の本にも登場してもらっている方です。
拒食症と強迫性障害で苦しんでいる方でした。
彼女の訪問をさせていただいたのは、僕の考えが変わった後だったので最初から変わらない関わりをさせていただいていました。
僕がしたこと。
そうです。これまでの方と同様、「それでいい」「大丈夫」というものです。
でもこの方にはとてもキツイことを僕は言いました。
自分を律して頑張って病気を治そうとしていた、
頑張って食事を摂ろうとしていた、
確認行為を減らそうとしていた、
そんな彼女に僕がお伝えしたことは、
「病気を治そうとしなくていい」
「食べたくなければ食べなくていい」
「そのままでいい」
「良くなろうとしなくていい」
ということでした。
彼女を取り巻く他の支援者さんたちは、
どうすれば十分に食事を摂れるようになるのか、
どうすれば強迫行為が無くなるのか、
を支援されているようでしたが、金村は「そんなことしなくていい」って言ったんです。
悪いですよねー。
他の支援者さんとの逆の事を言うなんて。
(イロハニトイロではスタッフによって全く逆の関わりを同じ利用者さんにすることが多々あります。もちろんそのほうがその利用者さんにとってもスタッフにとっても良いと考えているからです。その考えの基礎になったのもこの経験からかもしれません。またそんな話もいつかご説明できればと思います。)
でもそれが僕にとってのその人をありのままに認めることだったのです。
だってそうです。
その方のお話を聞くと、本当は「食べたくない」でしたもん。
本当は「もっと確認行為(強迫行為)がしたい」でしたもん。
そんな思いを自分で否定して「変わらなきゃ。治らなきゃ。」って思っているようでした。
昔、病気になった時の僕と同じです。
このように訪問するたびにいろんな本音を聴かせていただき、その全てに
「それでいい」
「それでもあなたは価値がある」
「あなたといるこの時間は金村を幸せにさせてくれている(←これウソじゃなく本当です)」
を伝え続けてきたわけです。
するとある日こんな電話をいただきました。
「金村さん、友人にケーキバイキングに誘われたんですけど行ってもいいですかねぇ?」
(金村)
「〇さんはどうされたいんですか?」
「行きたいです。でも食べた後の罪悪感が怖いし、吐くのが怖いんです。」
(金村)
「それじゃあ、行ってきてはいかがでしょう。そしてその後いっぱい後悔して、いっぱい吐いたらいいんじゃないですか。それでも○さんは大丈夫ですよ。」
そんなことをお伝えして数日後、その方から電話が掛かってきたのです。
「ケーキバイキング行ってきました! やっぱり食べた後罪悪感があって吐きました。でも行けたこと、食べられたことがとっても嬉しかったんです。行ってよかったです!」
ととっても明るく元気な声で語ってくださいました。
そしてその方は、その後自分で決意し初めて親元を離れて一人暮らしを始めました。
ちゃんと本当の苦労(自分の人生を生きる苦労)をすることを取り戻されたんだと思います。
その後は、訪問していませんが結婚をされ出産もされたと嬉しい報告をいただきました。
その方の訪問最終日の言葉が僕の大きな財産となっています。
それはこんな言葉です。
「病気が悪化してもいいとか、ダメでいいとか、頑張って自分を律して病気を治そうとしているのに何でそんなこと言うの!って、金村さんの言葉に正直最初は腹が立っていました。
でも今はすごく気持ちが楽になっているのを感じています。
こんな病気を持った私でいいんだなって自分で自分を少し許せるようになってきてるんです。
こんな私でもいいんですよね。」
そして、最後の別れ際玄関でこう言ってくださいました。
「私、今幸せなんです。病気は治ってないけど。なぜか気分は幸せなんです。
私一人暮らしを始めることにしました。
これから大変なこともあると思うけど、それでもいいんだなって思えています。
今の私は何とかなるって思えています。
だから金村さんも大丈夫。きっといい所長さんになれますよ。」
そんな言葉をいただきました。
つまり、今度は彼女の方が「金村さん、大丈夫ですよ」と不安な僕の心をありのままに認めてくれ、癒してくださったのです。
【ケース8】
そして最後にご紹介したいのが、当時小学生だった方のお話しです。
小学1年生からろくに学校には通えておらず自宅でゲームをして過ごしていた方の訪問に行かせていただきました。
「ゲームをやめて学校に行けるようになりたい」と話すその方に僕が最初にお伝えさせてもらったこと。
それは
「ゲームをやめなくていい」ってことです。
「ゲームを悪者にしなくていい」ってことです。
「あなたをずっと今まで守り支えてきてくれたゲームを大切にしてあげて欲しい」
とお伝えしました。
そして、
「学校に行くのが辛くて家に逃げたことはとても素晴らしいことだと思う。大切な自分を守ってあげたんですよね。」
とお伝えしました。
だってその方の分かって欲しい気持ちは、その事なんだと僕は思ったからです。
支援者が来たから「ゲームをやめて学校通いたい」って言わされただけで、本当はそうじゃない。
本当は学校に行きたくない、怖い、不安。
だからずっとゲームしていたい。
でもそれがダメなのも分かっている。
だから苦しい。
苦しい。
苦しい。
それを分かって欲しかった。
認めて欲しかった。
許して欲しかった。
そう望んでいると思ったからです。
そしてそんなあなたを支えてきた大切な大切なゲームを、ぜひ金村に教えて欲しい、とお伝えしたのでした。
もちろん
「学校も無理して行かなくていい」
「行きたくなったら行けばいい」
とお伝えしました。
そして毎回訪問の度に二人でゲームをおもいっきり楽しんだんです。
ホント楽しい時間でした。
するとある日、自分から
「外に出たい」
「映画観に行ってみたい」
「マクドナルド行ってみたい」
「自分でレジで注文してみたい」
「魚釣りしてみたい」
などなどたくさんの「やりたい(挑戦したいこと)」を言ってくれるようになったのです。
え?何で?
外が怖いなら出なくていいって言ってるのに、自分から行きたいって言うなんて。
どうして?
何があなたにそんな勇気を与えているの?
本当に人って不思議ですよね。
そうやってこれまで避けてきたことに自分から取り組み始めたのです。
そして金村の訪問が終わるときには、親元を離れて暮らし体の不調を直し、そして学校にも行く決意をしたのです。
誰から言われたでもありません。
自分でこの人生を変えようと、これまで避けてきた不安な未知の世界に自分で進んでいったのです。
この方の姿を見て僕は確信に至ったのです。
人は自らを癒す力を持っている。
誰もが自らの人生を自らの力で再構築する力を持っている。
ただそれに向かう勇気と覚悟がなかっただけ。
その「やってみる“勇気”」と「傷つく“覚悟”」を育てることが、支援者の役割だ!
その二つを育むのが、自己肯定感であり、それはありのままを認められる経験から得られるんだ.
と。
安心の場所と安心の他者との関係で育まれるんだ。
と。
障害者だとか健常者だとか関係ない。
「この人は劣っていて問題を抱えた障害者」と見ている自分がいただけ。
自分が勝手に作り出していただけ。
自分(支援者側)の弱さを隠すために利用していただけ。
みんな同じ人間なんだ。
みんな同じだけど、誰一人同じ人がいない。
みんな違うけどみんな同じ。
僕もあなたも違うけど、同じ。
そう、みんな大丈夫!
だからこそ
「自分の力で自立できた」
と思える支援をする。
それが僕の支援の考えの大きな基礎となったのです。
そして最後にこのことも話させてください。
その方が変われば家族も変化していくんです。
家族全体がより幸せな方向に変わっていくんです。
本当に「奇跡」のような経験を訪問看護でたくさんさせていただきました。
だからイロハニトイロを「こんな事業所にしたい」という強い信念を持つことができたのです。
(いやいや、実はたまに不安になりブレそうになりますけど…)
次回は、僕の考えをより強化してくれた素晴らしい方々との出逢いをお伝えできればと思います。
イロハニトイロ所長
金村栄治