vol.38-⑧ え?これって奇跡?それとも…
- 2022年05月23日
- 所長の学び
前回の続きになります。
金村の考えが一変し、支援者が障害を作っている。
この僕が、自分の正しさを押し付け、目の前の人を否定し、病気や生活を悪化させている。
病気や障害を作っている真犯人はこの僕だったということが分かりました。
それだけでは、今のイロハニトイロにはつながりません。
僕の価値観が一変した後に起こった出来事の数々。
まさに、「奇跡」と呼びたくなるような出来事の数々の体験の積み重ねで今のイロハを作る決意に至る根拠を集められたのです。
ここはとっても重要なところであり、たくさんのエピソードがあります。
そしてそのどれもがオンリーワン。
同じものが一つとしてありません。
だから面白い。
だから学びしかない。
ですので、それらのご紹介を2回にわたってさせていただいて、その共通点をお話しさせていただきます。
そこで話す「共通点」がイロハの考えに繋がるものとなります。
それでは訪問看護第2章の始まりです。
利用者さんの本音を聞き、価値観を一変させる経験をし、金村はこれまでの考えを捨てることにしました。
でもどうすればいいのか分からない。
教科書もない。
マニュアルもない。
だから不安だらけ。
そんな中で考えたこと、
それは、
「これまでのやり方が相手を苦しめてきたのだから、これまでのやり方と“逆”の事をしてみる」
ということです。
それは、どんなことかというと、
相手を変えようとしない
相手を良くしようとしない
苦手なことを克服させようとしない
頑張らせて成功体験を積ませようとしない
明確な目標を作らない
条件付きでその人を見ない
支援しようとしない
病気を治そうとしない
教えようとしない
つまり、それはどういうことかというと
訪問看護利用者さんの生活を変えようとせず、その方の思いや考えをありのままに認める
ということです。
つまり、つまり、
その方の生き方を尊重する
ということです。
今、この言葉を聞いてどのような印象を持ちましたか?
「なんかイイ!」って思いました?
僕も書いていてとてもキレイなな言葉を書いてるな、なんて思ったんです。
でもですね、これってその時の僕にとってはすっっっっっっっごく怖いことなんです!
そして一見、簡単なことのように見えてすっごく難しかったんです。
だって、「相手の為になることを何かする(与える)ことが支援者だ」という強い思い込みがある僕にとって、「何もしない」ということは、支援者としての役割を放棄しているように思えてしまうからです。
診療報酬(お金)ももらっているのに、それに見合ったことを自分はしていないような気がして、なんか詐欺師になった感じにも思えてむず痒かったんです。
そして、
自分が役立たずの無能な人間なのではないかと思えてきたりもします。
周りからどう見られているんだろうという不安まで出てきます。
「あいつは仕事をしていない」と思われない?
「あいつは遊んでいるだけじゃん」と思われない?
「あいつは仕事とプライべートを混同している奴」と思われない?
「苦しんでいる人に支援者として何もしないのは虐待に等しい」って思われない?
「詐欺師だ」って思われない?
(不安がどんどんいらぬ考えを生み出していきます。冷静に考えたらそんなことないし、もしそう思われたとしても自分の価値とは関係ないのに)
ほら、ここでも分かりますよね?
これまでの僕の支援が「相手の為」ではなくて、自分の中のそんな不安を取り除き、自分が役立つ人間でいたいという「自分の為」の支援だったって。
(あーー恥ずかしくてたまらない)
だからもう、最初は不安だらけでそりゃもう居心地悪くて仕方なかったんです。
でもそんな自分の気持ちをなだめて、相手をありのままに見て認めることに最大限の力で努力してみることにしたのです。
(そうですね。この時はまだめちゃめちゃ意識して努力し、頑張って相手を認めようとしていたと思います。そうしなければいけないくらいに、まだ自分のしていることに確信が持てなかったんでしょうね。)
それでは、こんな風に金村が変化したことでどんな出来事が利用者さんとの間に起こったのかを紹介したいと思います。
本当は一人一人詳しく話したいのですが、長くなってしまうのでなるべく簡単にお話させてください。
【ケース1】
部屋がゴミだらけで訪問看護のたびに一緒に掃除したり、どうすれば掃除できるようになるのかを支援してきた方に対して、掃除をすることをやめました。
それよりも本人の今話したい事(だいたいが過去の自慢話や豊富な知識の披露)を聴き、そこを一緒に楽しんだんです。
そして、部屋が汚いことについて
「自分の部屋って一番落ち着ける空間ですよね。誰にも迷惑かけていないし、きっとこのままでもいいと思います。今までそれを無理に片付けようとしてすみませんでした。もっと〇さんの知識を教えてください。」
とお伝えしました。
するとある日、訪問すると部屋がキレイになっているんです。
え?どういうこと?????
金村からしたら不思議でたまらないわけです。
誰に言われたでもなく自分で掃除をしようと思ったそうなんです。
変えようとしたら変わらないのに、「変わらなくていい」にしたら自ら変わる?
え?どういうこと????(何度も思います)
【ケース2】
1日中、自分のこだわりの画像を見つけるための検索に追われており、パソコンから離れられない方に対して、どうすれば画像検索から離れられて時間を有意義に使えるようになるのか、を支援するのをやめました。
金村は、その方にもこれまでのことを謝罪し、画像検索してしまう気持ちをたくさん聴かせていただきました。
そしてどんな画像を検索しているのかたくさん教えてもらいました。
そして画像検索しているのを何も言わずずっと見守りました。
本人がやめたくてもやめらない苦しさに共感しながらも「やめなくてもいい。」とお伝えしました。
するとある日訪問すると、
画像検索から離れるための方法や考え方を自分なりに紙に書いて分析し、「こんなのどうですか?金村さんはどう思いますか?」と意見を求めてきてくださったのです。
自らその苦しい行動を止める方法を見つけ出そうとし始めたんです。
もちろん、その後過度な画像検索はなくなりました。
え?どういうこと????
なんで?
【ケース3】
拒食で悩んでいる女性について、どうすれば食事が摂れるようになるのか、歪んだ認知(受け止め方や考え方)を修正すること、を支援するのをやめました。
ここでも、その方にこれまでの金村の関わりを謝罪し、「食べなくてもいい」ことをお伝えし、食事の話よりもその方の話したい事や好きなことを聴かせていただくようにしました。
そして一見おかしく聞こえるような考え方にも本人の思いがあることを知り、そのことを聴かせていただいたことに感謝するようにしたのです。
するとある日、本人から「料理がしたい」と言ってくれるようになり、金村に得意な料理をふるまってくださったのです。(本人はまだ食べることは拒否していましたが)
そして、ずっと言えなかった親への本音(お母さん寂しい。お母さん私をぎゅっとして欲しい)を親に伝えられるようになったのです。
そしてお母様もその言葉を聞いて変わっていくんです。
え?え?なんで?なんで?
なんでそんなことが起こるの?
僕は何もしていないのに。
【ケース4】
仕事用の電話にはよく利用者さんからの電話がかかってきます。
苦しい。死にたい。
自殺したい。
そんな訴えを何度も繰り返す方がいらっしゃいました。
以前の金村は、どうすればその考えを変えられるのか、どうすればもっと希望を持ってくれるのかを考えて説得をしていたのですが、それをやめました。
話を黙って聴き、「そりゃそんなことがあったら死にたくもなりますよねぇ。辛いですねぇ。」とその思いを否定せずに認めるようにしたのです。
その途端
「そやろ?金村さん分かってくれる?」
「ほんでな、今日寿司食べたんやけど金村さんは何のネタが好きなん?」
え?自殺の話はどこ行ったの?
もうそのことは終わりなの?
電話もすぐに終わり、その後は死にたいという訴えがどんどんなくなっていたのです。
え? え? え?
あれだけ死にたい言ってたのにどうして??????
【ケース5】
今からリストカットしようと思う。
本当はしたくないけど、こんな辛いことがあって・・・。
苦しくてたまらないからリストカットして少しでも楽になりたい。
そんな電話をいただきました。
どんな出来事があったのか、そしてどんな思いを抱かれているのを聴かせていただきました。
そして僕は、
「そりゃ苦しいですよー。そりゃリストカットしたくなりますよー。僕はリストカットしていいと思います。〇さんが少しでもラクになるならそうしてください。辛いお話を聴かせていただいてありがとうございました。」
とお伝えしたのです。
実はこれ、めちゃめちゃ怖かったんです。
僕の担当の方でもないし、リストカットすることを勧めるなんて、めちゃめちゃ上司に怒られるんじゃないか。
「金村さんがしていいって言いました。だから私はしたんです。」と言われて大問題になるんじゃないか。
そんな大きな不安がありました。
でも、僕は今は自分を守ることをしないと決めたので、怒られる覚悟で、大事件になる覚悟で、そのようにお伝えしたのです。
次の日にその方の担当スタッフから僕に直接電話があったんです。
「金村さん、〇さんに何か言いました?」
ドキーーーーーーーーーー!!!!!
心臓がバクバク言っています!
(担当スタッフ)
「〇さんがお礼を言っていましたよ。金村さんに話を聴いてもらって、リストカットしていいって言ってもらえたら、リストカットする気持ちがおさまったそうです。だからお礼を言っておいて欲しいとのことです。」
えーーーーーーー!??どういうことーーーー!?
でも良かったーーーーー!
こんな奇跡に見えるような出来事を2年目からどんどん経験していくことになったのです。
これらの経験をするたびに、
僕という人間は、ほんと今まで自分を守ることに必死だったんだなぁ。
相手の気持ちに寄り添えてなかったんだなぁ、って実感するようになったのです。
そして、
こうやって自分の気持ちを誰かにちゃんと理解してもらえると人は自ら変わり始めるんだ。
自分で自分を癒し始めるんだ。
人間にはそんな大きな力が誰もに備わっているんだ。
という考えが確信に変わっていったのです。
もちろん、これらの変化は僕の力じゃありません。
ただ影響を与えたことの小さな一つに過ぎない。
そしてきっと
他の支援者の方々の力や家族の力、突然起こる出来事の力も大きくあることでしょう。
しかし、以前の僕の支援が相手を苦しめることになっていた事は間違いないでしょう。
実はまだ聞いて欲しい利用者さんとの大きな出来事があります。
それを次回公開したいと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
イロハニトイロ所長
金村栄治